フライ ミー トゥー ザ ムーン

仕事と子どもに関する喜怒哀楽を中心に

お母さん、ありがとうって何?

うちの子は言葉が遅くて、2歳を過ぎてもほとんど話をしなかった。2歳3か月頃から言葉数が増え始めて、3歳になる頃にやっと言語による意思疎通が図れるようになった。しかし、「ありがとう」と「ごめんなさい」の二つだけは内気な性格もあってまったく言わなかった。

1歳になる頃から、ことあることに「こういう時は『ありがとう』って言うんだよ」とか、何かこぼしたら「ごめんなさいは?」と話をしていたので知らないわけではない。まして、こちらの言い方をオウム返しできるようになった3歳になったら言えないはずない。そう思った私は母親として滔々と話をしてみたり、時に怒ってみたり、あの手この手で「ありがとう」と「ごめんなさい」を言わせようとした。けれど、がんとして言わない。家の近所の商店街で買い物をすると駄菓子をもらえることが多かったので、息子は「ありがとう」を言うべき機会が多くあったのも私が焦っていた要因の一つ。もう何年も通っているお店の人に子どもの躾が出来ていないと思われるのが嫌でしつこく練習をした。けれど、息子は怒られたくないからとりあえずその場だけ言ってしのごう、ということもしなかった。

日は流れ、息子は「ありがとう」を言わないまま3歳半になる。この頃、バイバイと手を振ると相手に振り返してもらえることを学び、その喜びが癖になったようで促せば「ありがとう」と言えるようになった。私は喜々として商店街のお店で「ありがとう」を言わせ得意になっていた。そんなある日、家に帰って息子がぽつりと「お母さん、ありがとうって何?」と言った。

衝撃的だった。この子は意味がわからないからずっと言わなかったということを初めて知った。生まれて数年しか経っていないのに、あんなに責め立てたことを深く悔やんだ。結局、躾と思いながら私自身の保身が根底にあったのだ。

さて、感謝という言葉を使わずに3歳児にどう「ありがとう」を説明したかというと、迷った末に「助かりました。あなたの気持ちが嬉しいです。」だと伝えた。この説明の正しさに自信はないが息子は非常に納得したようで、その後、ありがとうを連発するようになった。しかも自分の欲しいものを見かけると、とりあえず「わあ、ありがとう~」と言ってみる、という荒技も身に付けた。

未だに「ごめんなさい」は言わないけれど、彼なりの理由があるのだろうと、その時を待っている。